※写真:Wikipedia「おにぎり」より
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部活の練習のあとで小腹が空いた時に、俺はよく、コンビニでおにぎりを買っている。その中でも特に好きなのが、韓国海苔を使った、牛カルビが具として入ったおにぎりだ。海苔にも塩気が効いている上、肉も一緒に食べられるという所が、俺の中で非常に大きなウェイトになっているのはいうまでもない。サッカーという、とにかく走り続けないといけないスポーツをするにあたり、汗と一緒に失われた塩分を補給する意味あいもあって、牛カルビおにぎりを食べるのが定番だった。
この日も俺は、サッカーの練習を終えて、最寄かつすっかり常連になっているコンビニへと足を運んでいた。お目当てはもちろん、いつも食べている牛カルビのおにぎりだ。他になにを買うことがなかろうとも、おにぎりだけは必ず買うことにしている。もはやルーチンワークみたいなものだが、気にしない。
コンビニの自動ドアをくぐると、店員の、
「いらっしゃいませー、こんにちわー」
という、よくある挨拶が返ってくる。だけど、俺の場合はさらに続けてこういわれる。
「いつもの牛カルビおにぎりの方ご来店ー」
まあ、それだけのためにこの店を訪れているのだから、否定はしないし、できないが。
菓子類や飲みものの並ぶコーナーには目もくれないで、俺はまっすぐに、おにぎりの陳列されているコーナーへと足を運んでゆく。
おにぎりコーナーの前には、俺と同じ高校の、バレー部のジャージを着こんだ女子がふたり並んで、おにぎりの品定めをしている最中だった。そのふたりよりも背の高い俺は、うしろからおにぎりの残りを確認してみる。
ツナマヨやおかか、梅や昆布といった、定番の具のおにぎりはまだ多数残っている。しかし、俺のお目当てである牛カルビのおにぎりは、この日はすでにあと二個だけに減っていた。そんなに牛カルビおにぎりを買いたい客が、俺以外にもいたというのだろうか。
そんなことを考えているうちに、目の前で立ち話をしていた女子のひとりがいった。
「じゃあ、あたしはツナマヨと牛カルビにする。ここの牛カルビおにぎり、すっごくおいしいって評判なんだ。ホノカはどうする?」
すると、ホノカと呼ばれたもうひとりの女子は、しばらく迷ったそぶりを見せたのち、
「うーん、どれも気になるけれど……わたしはおかかと牛カルビにしてみようかなー。リナのおすすめなら、間違いはなさそうだし」
そう応える。リナと呼ばれた方が笑った。
「よし、ツナマヨとおかか一個ずつと、牛カルビを二個だね! さっそくお会計行こう」
そのまま、ツナマヨとおかかのおにぎりをひとつずつ手に取ったのち、牛カルビのおにぎりに手を伸ばす……って、ちょっと待て。
こいつらに牛カルビおにぎりを持っていかれたら、俺の買う分がなくなるじゃないか!
俺は慌ててそいつらの間に割って入り、リナと呼ばれた女子が牛カルビおにぎりを手に取る寸前で、残っていた二個の牛カルビおにぎりをかすめ取る。危ない所だった……!
「ちょっと! あたしとホノカの牛カルビおにぎり、返してよ! あとからきた癖に横入りなんて、マナー悪いとは思わないの!?」
リナという女子が怒ったように俺にいう。それに対し、俺はすぐさま反論を試みた。
「先に手をつけた方の勝ちに決まっているだろ。お前らには悪いが、牛カルビおにぎりは俺のものだ! このまま買わせてもらうぞ」
リナと呼ばれた女子が、悔しそうにギリッと歯を噛み締めたのがわかった。どうやら反論の術を失ったらしい。俺は戦利品を手に、会計へと向かおうと歩きだした。その時、
「あの……リョウスケくん。その……ひとつだけでいいから、牛カルビおにぎり、譲ってもらえないかな……? わたし、ここの牛カルビおにぎりは食べたことがないの……リナのおすすめっていうから、食べたくて……」
ホノカという女子が、おずおずと俺の名前を呼びながら、お願いするように頭を下げてきたのだ。これには俺も面食らってしまう。
リナという女子がまだ怒りながらいった。
「ホノカがここまでしているんだから、一個くらい譲ってくれたっていいでしょ! 代わりに、ここでいちばん高い、筋子おにぎりを奢ってあげるから、牛カルビおにぎり、一個はあたしたちにちょうだい! お願い!」
そこまで頼まれた。ホノカという女子がなぜ、俺なんかの名前を知っていたのかが、妙に気になったので、少しだけ訊いてみる。
「ホノカ……だっけ。どこで俺の名を?」
すると、ホノカは恥ずかしそうに答えた。
「……サッカー部の次期エース、って、期待されていて……すごくかっこいいから……」
その言葉に、かあっと頬が熱くなる。俺自身ではそこまでと思っていなかったことだ。
「……これ、やるよ。俺は一個だけでいい」
俺はぶっきらぼうに答え、ホノカへと、牛カルビおにぎりを一個だけ渡してやった。
帰宅後、食べたおにぎりは、美味かった。
<了>
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