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第3回会合から始めた、リレー小説の第8回になります。
今回もひとり400字ずつを書き足しています。
ほとんど原文ママ、細部のみの修正になっています。
それでは、どうぞ。


・執筆順

藍沢→杉村→今和




【前回】
http://ginganovel.blog.jp/archives/18879308.html



藍沢:

(桜……そうだ、ここはみっちゃんと初めて出逢った場所だ!)
 思えば、彼女と初めて知りあったあの日も、枝垂桜が満開だったことを、いまさらのように思いだしているボクがいた。咲き乱れる桜花の下でみっちゃんと廻り逢い、ともに歩んだ時間は、そのころからすでにこころに壁を作り気味だったボクを、温かく導いてくれたのだ。
 そんなことを思っている最中、みっちゃんがくすくすと笑う声が、静かな風に乗って流されてくる。
「みっちゃん! どこにいるの!」
 ボクは叫ぶ。だけど、みっちゃんからの返事はない。
 これはきっと、自分の力で、すべての記憶を取り戻せというメッセージなのだろうか。それとも、みっちゃんがボクのことを弄んでいる、ただそれだけのことなのだろうか。それすらも、ボクにはよくわからなかった。
 それでも、ひとつだけ、確かに思いだしたこともある。
 ボクは、桜の花の下で出逢ったみっちゃんに、間違いなく恋をしていたのだ。ひととの「つきあい」を避けていたボクのこころを少しだけ溶かしてくれた、その優しさに触れて。

杉村:

 桜の木は何も語らない。ボクも何も語らない。
 何故か分からなかったがボクと桜の木の間には言葉は必要ないと思えた。
 ボクは桜の木のもとへと歩き出す。
 桜の木の前まで来ると静かに木に触れた。
(あたたかい……)
 確かにその木は生きていた。
「みっちゃん」
 ふいに言葉が出てきてしまう。
『たっちゃん?』
 突然ボクと桜の木の間を風が吹き抜けた。それと同時に桜の木が揺れる。
 そしてボクは思いだした。
『私ね。たっちゃんが困ったり、泣きそうになったり、ダメになりそうなったときは必ず現れてあげる!』
 それがボクにはうれしかった。
 今度は桜の木の下に寄りかかるように座る。
「あのねみっちゃん? ボクの昔話を聞かせてあげる。みっちゃんがいなくなった後の話」
 そしてボクは息を吸うと話し始めた。
「あれは、ボクが小学六年生の時の話……ボクね、この時、初めてあだ名がつけられたんだ」
 ボクはいつのまにか笑っていた。

今和:

「デクノボー」それがボクのあだ名だった。おそらく、のっぽで、突っ立てっている姿が、まるで棒のようだと見て取れたのだろう。併せて、国語の授業で取り上げた宮沢賢治が、同じように「デクノボー」を語っていたという。
 初めてのあだ名に、ボクは嫌悪感を抱いた。それまで友達だと思っていた彼らは、口々に「デクノボー」と言い、ボクにまるで物珍しい動物を見るかのような視線を投げかけてきた。
 ――卑しい目。
 ボクは目を逸らすしかなかった。しかし、一度広がった嘲笑の波は静まらなかった。
「おい、デクノボー」
「ねえ、デクノボー君」
「デ・ク・ノ・ボー」
 ボクは耳を塞ぎ、目を閉じ、一人の世界に入っていた。と、ある時だった。
「止めなさいよ!」
 そう言ったのは、一人の女の子だった。
「大丈夫?」
「う、うん」
「わたし、柏木えみっていうの。よろしくね」
「ボク、今和立っていうんだ。よろしく」
 すると、彼女はボクの机の名札を見た。
「『立』と書いて『りつ』なの?」
 ボクは小さく頷いた。
「よし、あなたの名前は『たっちゃん』よ」
「は?」
 ボクは戸惑った。すると彼女は自分のことを指さした。
「私のことは『みっちゃん』って呼んでね」
 そしてボクたちは躊躇いがちに握手した。



(続く)