※この記事に最初に足を運ばれました方は、以下のリンク先を先に見てくださいませ(礼)

【サークルについて】
http://ginganovel.blog.jp/archives/6777896.html

【メンバー募集要項】
http://ginganovel.blog.jp/archives/13698622.html

【メンバー紹介】
http://ginganovel.blog.jp/archives/6809588.html

【参加・出展情報】
http://ginganovel.blog.jp/archives/14491612.html

【一本桜の会『企画・事業内容、支援企業、協賛者』】
http://ginganovel.blog.jp/archives/18830857.html



【23】
http://ginganovel.blog.jp/archives/22502557.html



 まただ。またあの夢だ。
 六花が僕の前から去っていったあの日のできごとが、延々とリピートされる。
 みぞれさんと逢うようになってから、しょっちゅう見るようになってしまった。
 最後に手を繋いだ時の冷たいその感触も、別れの瞬間のできごとも、あの時の感情も……六年近くが経つというのに、いままさにそれが起こっているかのように、克明に浮かび上がってくる。幾度となく頭の中で再生される記憶は、なぜかその部分だけは劣化することがなく、いつ見てもまったく同じ強さで、あの日の痛みを再現してくる。
 前にも同じことを書いたけれど、やはり時間というものは優しくて残酷だと思う。時間はどんなことにでもよく効く薬だという話を聞くが、あれは嘘に違いない。時間を経るごとに、僕の胸の痛みはより強く、鋭いものへと変わってきているのだから。
 時間が解決してくれない、消えることのない傷を胸に刻まれた僕は、これからどのようにして生きていけばいいのだろうか。そもそも、このまま生きていていいのだろうか。
 もはやそのことさえ、まったくわからなくなってしまった。
 いまの僕に、生きている意味とか価値とかいうものは、あるのだろうか。

 セッちゃんにとって、時間はなんの解決も生まない、そんなものだった。霧ちゃんの読みは外れていたということになる。そのことに軽く安堵を覚えた。それと同時に、私がなんとかしてあげないといけないと思う気持ちが、さらに強くなるのを感じた。

 ねえ、六花。きみはまだ、答えてはくれないのだろうね。
 僕はきみに三つの問いを投げかけた。
 きみのことを、好きでい続けていいのか。
 このまま生き続けていいのか。
 そして、きみが僕のことを恨んでくれていないかどうか。
 ひとつだけでもいい。明確な答えがほしい。
 それだけで僕は、きみと同じ場所に行くという決心を、より強くできるのだから。

 ――六花さんと、同じ場所……やっぱり、セッちゃんの望んでいることって……
 急いでページをめくる。早く真実が知りたかった。

 彼女はいま、友達のことに全力を注いでいるように見えた。僕がだいぶ昔に失くしてしまったはずの、友達のために熱くなれるこころを、彼女はまだしっかりと持っていた。
 そのことが余計に、六花のいたころの映像を思いだす原因になった。
 きょうの僕は自分でもわかるぐらい、柄にもなく熱くなってしまっていた。まだ六花が僕の隣にいてくれて、僕のことを守り続けつつ、僕とともに傷を負っていた、あのころのように。
 でも、六花はもう僕の前にはいない。いま目の前にいるのは、六花の面影だけだ。

 友達のために熱くなれるのは、美徳でありながら欠点であると、いまの僕は思っている。
 少なくともそのこころは、幸せな結末ばかりは生まない。むしろ悲劇へ向かうフラグをいとも簡単に立ててしまうかのような、そういった類の危うさを帯びている。
 ――どうかみぞれさんには、悲劇が降りかかりませんように。
 ――僕と同じ道を、彼女が歩かないで済みますように。
 いつの間にか、神様と呼ばれる残酷なものに祈ってしまっている、僕でありながら僕ではない誰かが胸の中にいた。
 いつからか宿ってしまった第二の恋ごころの種は、少しずつ芽吹き始めていた。

 セッちゃんはあの日も確かに、私のことを思ってくれていた。でも同時に、恋ごころという苦しみにも耐えないといけなかった。それがどれだけつらかったのか、私にはわからない。でも、間違いなくつらかったはずだ。

 ねえ、六花。もしきみがいま、ここにいたならば、なんといってくれたんだろうね。
 僕を止めただろうか。僕の背中をそっと押してくれたのだろうか。
 みぞれさんに対してきみは、どんな感想をいだいただろうか。
 きみがみぞれさんに共感をいだくことは、だいたい予想がつくように思う。だけど、それより先は、いまの僕にはもう、推し量ることはできないんだよ。

 六花、六花、教えてほしい。
 僕はこれから先、みぞれさんとどのように向きあえばいいのだろうか。

 あの時にはセッちゃんはもう、私との関係に悩んでいたのだ。六花さんと似ている私はすでに、セッちゃんのこころを傷つけ、追い込んでしまっていた。私はそんなことは、露ほども望んでなんかいなかったのに。

 みぞれさんは結果として、僕と同じ道を半分だけ歩み、残りの半分は違う道を歩んだ。そのことに胸を撫で下ろしている自分と、嫉妬している自分がいることに、僕は気がついていた。
 みぞれさんに、幸せであってほしいと願う自分。
 みぞれさんに、六花と同じであってほしいと願う自分。
 どちらがいまの僕の本心なのか、まったくわからない。
 そしてまたきょうも、六花の面影が目の前を揺らしてゆく。
 どうして……もう六年近くが経つのに、どうしていまさらになって、僕の前に鮮やかに浮かび上がってくるのか? どうしていまさらになって、僕のこころの傷をかすめていくのか?
 みぞれさん……どうしてあなたは、僕の前にいま、六花がいないことを意識させるのか?

 どうして僕に、二度めの恋ごころを、与えてしまったのか?

 痛い、痛い、痛い。
 こころの古傷が疼く。
 これ以上関わってはいけないと、こころが悲鳴をあげている。
 次に逢った時……僕は、その残酷な事実を突きつけることができるだろうか?

 やはりセッちゃんは、傷ついていた。そして、私と別れることを、望んでいた。
 私が。
 わたしが。
 ワタシガ。
 セッちゃんのこころを傷つけ、ずたずたに引き裂いてしまっていたのだから。
 霧ちゃんの時と、まったく同じだった。すべては私のせいだったのだから。

 前に聞いた三つの問い……きみはまだひとつも答えてくれないね。
 きみのことを好きでい続けていいのか。
 このまま生き続けていいのか。
 そして、きみが僕のことを恨んでくれていないかどうか。
 どれにでもいい。そろそろ答えがほしい。
 僕は待っているから。この街に再び雪が降る、その日まで。

 三つの問いは、どれもが痛々しく感じた。
 セッちゃんがそんなことを訊ねたかったなんて、これっぽっちも思わなかったのだから。
 そして、雪の日のこと……
 私の中で、最悪の予想はどんどん膨らんでいった。

 別れの言葉を切りだした時、みぞれさんの表情は、僕が思っていた以上に、引きつった笑みを浮かべていた。僕はそんな彼女の顔を、まっすぐに見つめることができなかった。そんな表情にさえも六花の面影がまとわりついてくるような、そんな気がしたからだ。実際の六花は、そんな引きつった笑みなど、浮かべたことがなかったというのに。
 みぞれさんはそのまま僕の家から飛びだし……二度と戻ってくることはなかった。
 彼女のこころは、間違いなく傷ついたことだろう。だが、それは僕が望んだ結末でもある。
 彼女のこころが再び僕の方を向いたりすることがないように、わざと冷たい言葉と口調とを選び、僕はみぞれさんへといい放ったのだから。
 願わくは、彼女のこころが二度と、こちらを向きませんように。
 僕に向かって笑いかけてくれるなどということが、二度と起こりませんように。

 セッちゃんに別れを切りだされたあの日のことも、しっかりと書かれていた。
 ――やっぱり、セッちゃんも傷ついていたんだね。痛いと、そう思ったんだね。
 私なんかのせいで。それはもう、覆せない事実だった。

 僕と霜太さんは、未だにきみの死に縛られ続けている。それはまぎれもない、現実のできごとなんだよ。

 それでも……まだきみは、答えてくれないんだね。
 きみのことを好きでい続けていいのか。
 このまま生き続けていいのか。
 そして、きみが僕のことを恨んでくれていないかどうか。
 きみの答えがほしい。それが僕の決心を固める、最重要なピースになるのだから。

 今年こそは本当に、雪が降ってほしい。
 あの日と同じ空の下で、僕はきみのもとへと行きたい。ただそれだけなんだよ。

 六花、六花。いますぐきみに、逢いたいよ。

 ここまで読んだ時点で、最悪の予想は確信へと変わってしまった。
 私は残りのページを大急ぎで読み尽くし、ポケットからケータイを取りだした。



【25】
http://ginganovel.blog.jp/archives/23163216.html