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毎月26日にお送りしています、コーナー「藍沢篠の書架」第19回をお送りいたします。
今回の紹介は、入間人間さんの「バカが全裸でやってくる」です。
書影は……今回は諸事情によりカット。
メディアワークス文庫より好評発売中です。

~あらすじ~

僕の夢は小説家だ。
そのための努力もしてるし、誰よりもその思いは強い。
お話をつくることを覚えた子供の頃のあの日から、僕には小説しかなかった。
けれど僕は天才じゃなかった。
小説家になりたくて、でも夢が迷子になりそうで。
苦悩する僕のもとにやってきたのは、全裸のバカだった。
大学の新歓コンパ。
そこにバカが全裸でやってきた。
そしてこれが僕の夢を叶えるきっかけになった。
こんなこと、誰が想像できた?
現実は、僕の夢である『小説家』が描く物語よりも奇妙だった。
(メディアワークス文庫あらすじより)

~感想・雑感~

「なんてタイトルだ!?」と思われた方もかなり多いのではないでしょうか。
実際、自分も同じことを思いましたし、これは読むべきかと迷った作品でもあります。
とりあえずひと言だけいわせていただけば、タイトルでどん引いた方は、騙されたと思って戻ってきてください。
この話は、タイトルのふざけ具合から想像がつかないほどに、意外な味を持った物語です。
特に、あらすじにある通り「小説家」を夢見る方にとっては、ひとつのサクセスストーリーになりうるものです。

前置きが長くなりましたが、それでは、内容に入ってまいりましょう。

主人公の「僕」は、幼いころに国語の授業で課題としてだされた「お話作り」で褒められたことを機に、小説家になることを夢見るようになった大学生です。
……が、本人が黙秘している(←ただし雰囲気はわかる)通り、その夢を追いかけるあまりに、10代の大半を浪費してしまい、大学に上がってすぐの新歓コンパの席ですら、隣には誰もいない、つまる所の「ぼっち」。
それでいながら、同い年にしてすでに小説家としてデビューを果たしているとある作家の姿を追いかけ、力の差に絶望を味わっているさなかという状況から、物語は始まってゆきます。

そこにやってくるのが、ある意味(?)真打ち登場ともいうべきなのか、タイトルにある「バカ」。
なんとこの「バカ」、新歓コンパの席にいきなり泥酔した状態で、そして恐るべきことに、一切の衣類を身に着けずに闖入してくるという、衝撃的な登場の仕方をします(←よい子は真似してはいけませんね)。
そんな「バカ」に目をつけられた「僕」は「バカ」に絡まれた果て、酔いが回って倒れた「バカ」を世話する形で、自宅に泊めてひと晩をすごします。

翌日に「僕」の自宅に置いてあるノートやパソコンのデータから「僕」が小説家志望であることを知った「バカ」は、その後もなにかと「僕」に絡んでくるようになります。
なにを根拠にしているのかは謎ながら「僕」に「小説家になれると思うぜ」という言葉をかけてくる「バカ」。
そんな彼と「僕」のやり取りは、コミカルに、同時にシニカルに語られてゆきます。

最初のうちは、他愛のないやり取りが続きますが、ここでもうひとりの物語のキーキャラクターが登場します。
それが「僕」がその姿を追いかけ、力の差を味あわされている存在になる、現役大学生作家・甲斐抄子です。
「僕」と同い年にして、累計ですでに100万部以上もの売り上げを誇る、売れっ子作家の彼女に「僕」は「小説家になるには才能が要るのか」という問いかけをします。

抄子からの答えは、ある意味では非常に残酷ともいえるものです。

「努力と環境で適性を覆せると本気で思っているのですか?」
「特別でない人間が特別な場所に行ったところで、埋もれるとは考えないのですか?」

一介の志望者でしかない「僕」とは違い、プロ、ひいては仕事としての小説家だからこそ返すことのできる答えですよね。
実際、小説家の世界というものには、厳しい現実があるのも確かです。

抄子の返答に、またも打ちのめされた「僕」を引き上げるのは、いつの間にか「僕」の自宅に居座る癖がついている「バカ」の言葉です。
「バカ」の提案により、ライトノベルの新人賞を狙うことになった「僕」は、抄子に弟子入りを志願。
しかし、抄子から「次の作品でデビューできなかったら、小説家志望を諦めなさい」といわれてしまいます。

ここで再び登場するのが「全裸」というキーワード。
最初は単に「バカ」の登場のインパクトのみにあてがわれたような言葉ですが、実は大きな伏線になっています。
というのも、抄子が語る「小説」というものは「表現の手段」であり、それでいながら「著者の全裸を読者に見せつけるようなもの」とまで語っている始末ゆえ。
実際、思っていることを赤裸々に語れないと、表現者としての「小説家」という存在自体が成り立たないともいえますよね。
この部分は、割と深いと感じた部分でした。
その後も辛辣な言葉を連ねてくる抄子に対し「僕」は、宣戦布告のような形で、賞を狙うことを語ります。

このあとは「僕」の執筆の場面に入るのですが、これがまた、執筆の苦しみを知っているひとは「わかる」と思わせてくるような描写です。
精神的に追い詰められ、体調不良なども重なりつつも「僕」は応募作品を少しずつ進めてゆきます。
執筆時の「僕」は「バカ」の生態や抄子の言葉に感化されたのか、全裸で執筆を行っている記述があります。
そこまでして「小説」というものは生みだされてゆくのだと思うと、相当に厳しいということは伝わるでしょう。

大変な執筆作業の果てに「僕」はついに小説を完成させ、賞へと送ります。
……と、長くなりましたが、ここまでが第1章の物語です。

以降、第2章~第4章までは主人公が次々入れ替わり、抄子とも違った考え方の小説家たちのそれぞれが描かれています。
また、章の合間合間に、編集者と思しきひとの視点から見た、選考の様子が挟まってきます。
特に、第4章と第5章の間の幕間は、非常に意味深なフレーズが多いですね。

さて、話は一気に進み、第5章。
ここでは、物語冒頭に繋がる「バカ」の過去が明らかになります。
なぜ「バカ」は「僕」ととんでもない出逢い方をしたかがようやくここでわかるという、少しもどかしさもある章です。
「バカ」には「バカ」なりに、深い事情があるのですが、それは語らないでおきましょう。
すべてが繋がった時に「そういうことだったのか」となれば、それでいいと思います。

物語を作るということは、とにかく「自分との戦い」であり「ライバルとの競いあい」でもあり、そして「読者さんとの戦い」でもあります。
そんな世界に一歩でも足を踏み入れたならば、逃れることは叶わない、そんな厳しさを孕んでいます。

……それでも「書き続けたい」と思うのは、それぞれに事情があるはず。
たとえそれが、自らのすべてを曝けだすような、ともすれば自慰行為に近いものであったとしても、です。

この物語は、単なる「小説バカ」の話であり、同時に「小説という世界に魅せられた者たち」の話です。
物語という手段で自己表現をしたいひとには、ぜひいちど目を通していただきたい作品です。
綺麗ごとで済まされる世界ではないはずなのに、非常に美しい世界であるということを、再認識できると思いますよ。

~書籍データ~

初版:2010年8月(メディアワークス文庫)

続編:「バカが全裸でやってくる Ver.2.0」2011年9月(メディアワークス文庫)

漫画:無印のエピソードをベースにした、漫画オリジナルの展開で発表(作画:井田ヒロトさん)
   1巻→2012年7月、2巻→2013年1月(カドカワコミックス・エース)

~作者さんの簡単な紹介~

入間人間(いるま・ひとま)

1986年生まれ。岐阜県出身。男性。
2006年に第13回電撃小説大賞に応募した「嘘つきみーくんと壊れたまーちゃん」で、最終選考まで残ったものの、物議を醸した末に落選するが、大幅な改稿の末に2007年に1巻が刊行されデビュー。シリーズ化に至り、2011年(後日談に当たる11巻のみ2017年に刊行)まで続く長大な物語となる。全12巻(本編10巻、短編集1巻、後日談1巻)。のちに一部エピソードが実写映画化・コミカライズされた。
2009年~2011年にかけて「電波女と青春男」シリーズを発表。全9巻(本編8巻、アナザーストーリー1巻)。のちにテレビアニメ化・コミカライズされた。
2009年に「僕の小規模な奇跡」を発表。初の単行本となる。
2009年から「探偵・花咲太郎」シリーズを発表中。既刊2巻。1巻の「探偵・花咲太郎は閃かない」は、メディアワークス文庫の創刊ラインナップの1冊。
2010年から「バカが全裸でやってくる」シリーズを発表中。既刊2巻。1巻のエピソードがコミカライズされた。
2013年から「安達としまむら」シリーズを発表中。既刊7巻。
その他の著作として「多摩湖さんと黄鶏くん」、「トカゲの王」シリーズ(既刊5巻)、「クロクロクロック」シリーズ(全3巻)、「六百六十円の事情」、「ぼっちーズ」など多数。
ほぼすべての著作の登場人物や世界観がリンクしているという、広大な世界をシニカルに描く群像劇が得意。
また、執筆・刊行のペースが非常に速く、すべての著作を網羅するのが大変な作家でもある。



……というわけで「藍沢篠の書架」第19回は、入間人間さん「バカが全裸でやってくる」でお送りいたしました。
この紹介から、実際に本をお手に取っていただけることを切に願っています。

それでは、次回をお楽しみに。