東京ヴァンパイア・ファイナンス

※この記事に最初に足を運ばれました方は、以下のリンク先を先に見てくださいませ(礼)

【サークルについて】
http://ginganovel.blog.jp/archives/6777896.html

【メンバー募集要項】
http://ginganovel.blog.jp/archives/13698622.html

【メンバー紹介】
http://ginganovel.blog.jp/archives/6809588.html

【参加・出展情報】
http://ginganovel.blog.jp/archives/14491612.html

【一本桜の会『企画・事業内容、支援企業、協賛者』】
http://ginganovel.blog.jp/archives/18830857.html


毎月26日にお送りしています、コーナー「藍沢篠の書架」第29回をお送りいたします。
今回の紹介は、真藤順丈さんの「東京ヴァンパイア・ファイナンス」です。
書影は上の写真の通り。
電撃文庫より好評発売中……なのでしょうか、初期作ゆえに現在は入手困難かもしれないです。

~あらすじ~

真夜中に出没し、超低金利で高額融資をする〈090金融〉ヴァンパイア・ファイナンスを営む"万城小夜"。今夜も獲物=融資客を求めて蠢く。
送りオオカミをめざす"ひのけん"。性転換手術をしようとしている"美佐季"。振り込め詐欺グループに復讐を目論む"〈やえざくらの会〉の老人たち"。ドラッグ・デザイナーをやめたがっている"しずか"。
都会のアンダーグラウンドで息する彼らは小夜に出会い、融資をうけるかわりに自身の問題に首を突っ込まれるが……。
(電撃文庫あらすじより)

~感想・雑感~

超絶的なタイムリーで、著者の真藤順丈さんが直木賞を受賞されたため、急遽、この記事を書こうと思った次第です。
真藤順丈さんの初期の作品の中、特にあまり知られていないのではないかと思う作品を、今回はざっくりと紹介してみます。

それでは、内容の方に入ってゆきましょう。

この作品は、ひとりの金融業者とその融資客たちが織りなす、群像劇という形になっています。
もっとも、金融業者・万城小夜の視点からのパートは存在せず、融資客たちそれぞれの視点から物語が進行してゆきます。

最初の章は、小夜はちょっとだけ登場する程度で、残りは融資客たちの抱える事情が綴られています。
彼らには彼らなりの複雑な思いや理由が存在し、その目的を果たすために、小夜のもたらす高額融資を受けとってゆきますが……代わりに、小夜からいろいろと問題に首を突っ込まれてゆきます。

個人的に興味深いと思った"事情"を抱えているのは、性転換手術をしようとしている"美佐季"です。
このキャラの視点から綴られるページには、なぜかフランケンシュタインのロゴマークが貼ってあるのですが、これが意外にもポイントにもなっていたりします。
どういう経緯で、性転換手術という大きな目的を持ったのかは、読み進めてゆくうちに明らかになりますが、ひとつヒントをだすと、普通の性転換手術とはちょっと違う、ということですかね。

他の融資客たちも、それぞれに興味深い事情を抱えているわけですが、そんな彼らの事情と事情がリンクし始め、その答えとして、小夜はとある方法ですべてに決着をつけることになります。
もっとも、この方法はモラル的には許されることではないのかもしれません。
それでも、すべての融資客たちを平等に、しっかりと救うためには、最善策だったといえるような答えをだしています。
答えは読んでみてのお楽しみですね。

そして最終章。
この章では、小夜がなぜ「ヴァンパイア・ファイナンス」を設立したのか、そしてなにを目的としていたのかが明らかになります。
すべてが判明した時、この物語はただのアンダーグラウンド小説ではなく、弱者にヒカリを当てることも意識していたのだとはっきりしてくるかと思います。

社会的に弱いということはつらいことでもありますが、そこに手を差し伸べてくれるひとがいるのも確かです。
タフな小説と感動の最後を見届けたい方に、おすすめの1冊です。

~書籍データ~

初版:2009年2月(電撃文庫)

~作者さんの簡単な紹介~

真藤順丈(しんどう・じゅんじょう)

1977年生まれ。東京都出身。男性。
2008年に「地図男」で第3回ダ・ヴィンチ文学賞・大賞、「庵堂三兄弟の聖職」で第15回日本ホラー小説大賞・大賞、「東京ヴァンパイア・ファイナンス」で第15回電撃小説大賞・銀賞、「RANK」で第3回ポプラ社小説大賞・特別賞をそれぞれ受賞。"四冠"の成績をひっさげてデビューする。
2010年に「バイブルDX」を発表。
2011年に「畦と銃」(短編集)を発表。
2012年に「墓頭」を発表。
2014年に「七日じゃ映画は撮れません」を発表。短編集+長編という珍しい形で発表された。
2015年に「しるしなきもの」「黄昏旅団」を別々の出版社から発表。
2016年に「夜の淵をひと廻り」(短編集)を発表。
2018年に「宝島」を発表。同作で第9回山田風太郎賞受賞後、2019年に第160回直木三十五賞を受賞。
その他の活動に「異形コレクション」への作品寄稿などがある。
ジャンルにとらわれない、一見するとアウトローともいえる作風がひかる気鋭の小説家。



……というわけで「藍沢篠の書架」第29回は、真藤順丈さん「東京ヴァンパイア・ファイナンス」でお送りいたしました。
この紹介から、実際に本をお手に取っていただけることを切に願っています。

それでは、次回をお楽しみに。