楽園のつくりかた

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毎月26日にお送りしています、コーナー「藍沢篠の書架」第31回をお送りいたします。
今回の紹介は、笹生陽子さんの「楽園のつくりかた」です。
書影は上の写真の通り。
角川文庫より好評発売中です。

~あらすじ~

エリート中学生の優は、突如ド田舎の学校に転校することになった。
一杯勉強して、東大に入り、有名企業に就職する、という将来プランがぐちゃぐちゃだ。
しかも、同級生はたったの3人。
1.バカ丸出しのサル男
2.いつもマスクの根暗女
3.アイドル並みの美少女(?)
嗚呼、ここは地獄か、楽園か?
(角川文庫版あらすじより)

~感想・雑感~

3月も末に入り、来月から始まる新生活の準備もお忙しくなってきた方も多いかと思います。
そんなわけで、今回は「新たな生活」というポイントに着目した作品をひとつ、紹介してみます。

それでは、さっそく内容へ入ってゆきましょう。

主人公・星野優は、都会のエリート私立中学校に通っている少年です。
が、彼はある日、母・涼子から突然に、田舎の学校への転校を切りだされ、反論の余地もなく田舎での生活に突入してしまいます。

物語序盤での優は、将来プランまでも的確に描ききっている、年齢の割に大人びた部分を見せる反面、わがままな側面や、ひとを見下した態度が目につく描写がしばしば登場します。
また、都会での生活しか体験したことがなかったために、田舎での暮らしに不慣れで、ミミズを目にしただけで腰を抜かすなど、いかにも現代の都会っ子という感じが見て取れます。

そんな優のクラスメイトもまた、癖が非常に強いキャラばかり。
優から「バカなサル男」と蔑視されている山中作太郎、いつもマスクをつけていて会話をしない少女・宮下まゆ、アイドルのような華やかな容姿を持つ一ノ瀬ヒカルの3人だけなのですが、この3人もまたそれぞれに事情を抱えている、一筋縄ではゆかないキャラたちばかりです。
無論、エリート根性が染みついている優と反りがあうわけもなく、田舎にやってきた当初の優はいらだちを募らせつつも、その感情を隠し隠し、少しずつ周りのひとびとと接してゆきます。

そんな中、文化祭が近くなってきたころ、優はついに抱えた感情に耐えられなくなり、文化祭の準備のさなかで、事故ではあったものの、ヒカルに怪我を負わせてしまいます。
そこで作太郎の怒りが爆発。
作太郎がただのバカではないとわかるシーンでもあるのですが、詳しく書くとネタバレになるので、ここでは割愛いたします。
結果として、優はそれまでの自分を省みることとなります。
優が田舎にやってきた本当の理由も、このあとで明らかになります。

すべてがバラバラになりかけた優を引き上げるのは、ここまで見せ場のほとんどない、まゆの言葉になるのですが、これも詳しくは書かないでおきましょう。

この作品は、最初から最後まで伏線が緻密に張り巡らされているため、序盤しか話をなぞっていないひとにはタイトルの意味がまったくわからないと思います。
それでもこの作品を推したのは、最後まで読み切った時にもたらされる感動の味を知ってほしいからです。
「楽園のつくりかた」。
この意味深なタイトルの答えを、ぜひみなさまにも感じていただきたいです。

もし、新たな生活に戸惑いや不安を抱えている方がいらっしゃいましたら、ぜひ読んでみてください。
すばらしい答えが得られるかもしれませんよ?

~書籍データ~

初版:2002年7月(講談社)

文庫:2005年6月(角川文庫)

ドラマ:2003年11月29日にNHKで全国放送(主なキャスト→星野優:落合扶樹さん、星野涼子:天海祐希さん、一ノ瀬ヒカル:渋谷謙人さん、宮下まゆ:杉林沙織さん、山中作太郎:門野翔さん、星野高志:田村高廣さんなど)

~作者さんの簡単な紹介~

笹生陽子(さそう・ようこ)

1964年生まれ。東京都出身。女性。
1995年に「ジャンボジェットの飛ぶ街で」を発表。講談社児童文学新人賞・佳作に入選する。
1996年に「ぼくらのサイテーの夏」を発表。同作で第30回日本児童文学者協会新人賞、第26回児童文芸新人賞をともに受賞、一躍その名を広める。
2001年に「さよならワルガキング」を発表。
2002年に「楽園のつくりかた」を発表。同作で第50回産経児童出版文化賞を受賞。2003年に同作がNHKで実写ドラマ化された。
2004年に「バラ色の怪物」、「ぼくは悪党になりたい」、「サンネンイチゴ」を立て続けに発表。
その他の著作に「きのう、火星に行った。」、「世界がぼくを笑っても」、「今夜も宇宙の片隅で」、「家元探偵マスノくん」、「空色バトン」などがある。
思春期の少年少女を題材とした作品に定評のある作家。



……というわけで「藍沢篠の書架」第31回は、笹生陽子さん「楽園のつくりかた」でお送りいたしました。
この紹介から、実際に本をお手に取っていただけることを切に願っています。

それでは、次回をお楽しみに。