THE WINDS OF GOD

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毎月26日にお送りしています、コーナー「藍沢篠の書架」第36回をお送りいたします。
今回の紹介は、今井雅之さんの「THE WINDS OF GOD -零のかなたへ-」です。
書影は上の写真の通り。
角川文庫より好評発売中です。

~あらすじ~

売れない漫才コンビ、田代誠と袋金太はお笑い名人大賞を目指しネタの練習に明け暮れていた。
ある日二人乗りしていた自転車がダンプと衝突。
気がつくと見知らぬ部屋に寝かされていた。
しかも、窓の外には零戦!?
二人は事故のショックで昭和二十年の航空隊基地にタイムスリップしてしまったのだ!
しかも実在の特攻隊員の魂とすり替わってしまったらしい。
平和とはまったく無縁の世界に愕然としながらも、二人は周りの隊員達と少しずつ心を通わせてゆく。
(角川文庫あらすじより)

~感想・雑感~

今年もまた、8月。
そして、新元号になって最初の8月です。
終戦の日には、新たな天皇陛下も参列され、戦没者追悼式が開かれました。
そんなわけで、今年は久しぶりに「戦争」を題材にした作品をひとつ、紹介したいと思います。

主人公の田代誠は、誠を「兄貴」と慕ってくる袋金太とともに漫才コンビを組み、一発当てようとしている最中の男性です。
が、肝心の漫才の腕前は、金太の壊滅的なもの覚えの悪さゆえに、素人でもわかるくらいに下手。
ツッコミ担当の金太が逆に天然ボケで滑っているようでは、それも致し方ないでしょう。
なお、誠の方もさほど頭がいいとはいえない描写が見られ、あらすじで触れた「事故」の原因も、お金がなくなった果てに気分転換にナンパに行こうとして信号無視、という散々っぷりです。

この事故の少し前、誠と金太はひとりの男性と出逢います。
輪廻転生、英語にすると「リインカーネーション」と呼ばれるものを信じるかと問う男性は、誠と金太とも「どこかで逢った気がする」と述べてゆきます。
この邂逅が実は非常に重大な伏線なのですが、ここではその答えは明かさないでおきましょう。

事故のショックで特攻隊員と魂が入れ替わり、昭和20年にタイムスリップしてしまった誠と金太は、周囲の特攻隊員と時にぶつかりあい、時に話しあい、徐々に打ち解けてゆきます。
実在の特攻隊員であったと明かされるのはだいぶあとなのですが、そこには衝撃的かつ残酷な答えも待ち受けています。
ヒントは前述の「輪廻転生」の話。
輪廻について研究している特攻隊員や、隊長の話、とある妊婦との出逢いから、その答えは自ずと明らかになってくるので、これも答えは明かさないでおきます。

日本の敗戦が近づき、特攻隊員たちも次々といのちを散らしてゆく中、ついに8月15日。
この日、日本が敗戦する寸前になって、金太はとある決断を下します。
誠とともに飛行機へと乗り込んで、その行く先は……

お笑い芸人が主役ということもあり、笑いもあり、その一方でしっかりと特攻の現実を描いている作品というのは、極めて稀です。
この作品は舞台として出発しているため、多くのひとが目にしたことがあるかと思いますが、それでもなお、語り継がれてゆくべき作品と思います。
笑いと涙、戦争と輪廻の行く先を、どうか見つめてみてください。

~書籍データ~

初版:1995年6月(角川書店・当時のタイトルは「ウィンズ・オブ・ゴッド -零のかなたへ-」)

文庫:2001年4月(角川文庫・現タイトルに改題)

舞台:1988年に前身「リーインカーネーション」初演
   1991年に現在の形となる
   キャストでは作者・今井雅之さんが誠役で主演した他、上演先のご当地ネタなども絡めていた

映画:1995年と2006年にそれぞれ映画化されている
   作者・今井雅之さんが誠役(2006年版では特攻隊員役)で主演

ドラマ:2005年にテレビ朝日系列で放送
    誠役は山口智充さん、金太役は森田剛さんが演じた

~作者さんの簡単な紹介~

今井雅之(いまい・まさゆき)

1961年生まれ。兵庫県出身。男性。
高校卒業後、1年間の陸上自衛隊の所属を経て、1986年に法政大学を卒業する。
1986年に「MONKEY」で演劇デビューを果たし、1988年に「リーインカーネーション」に出演。この作品がのちに「THE WINDS OF GOD」に変遷し、ライフワークとなる。
他、非常に多数の演劇・舞台・ドラマ・映画に出演。
2015年に大腸がんで逝去。享年54歳。
代表作「THE WINDS OF GOD」は、世界中の涙を誘った名作として、現在も語り継がれている。



……というわけで「藍沢篠の書架」第36回は、今井雅之さん「THE WINDS OF GOD -零のかなたへ-」でお送りいたしました。
この紹介から、実際に本をお手に取っていただけることを切に願っています。

それでは、次回をお楽しみに。